ボディブラシで海を洗う方法

解題

 秋の暮れ方、砂浜は昼の賑やかさを思い出すように静かだった。自転車でやってきた家族が流木に火をつけている。漂流して、たまたまこの海岸に辿り着いたみたいに、寄る辺なさと幸福を抱えている。そんな家族をよそに、ボディブラシが置いてある。

海を洗っているのだ。

 もちろん、ボディブラシは海を洗えないし、今後の成長に期待しても、洗えそうもない。たかだかブラシである。それでもあえてブラシなのは、私たちが束になって、無心に海を汚すことのいかに簡単だったか、それを自覚してたったひとりで行動に移すことの、いかに難しいかを、写真に撮りたいと思った。

 写真を撮っている間、このブラシが滑稽だとしたら、私たちの為すことすべてが滑稽だと言っても、的外れではないと思った。すると、さきほどの家族の、厚手のセーターを着た母親らしき人物が流木を二つ手にとって、歩き始めた。片方には火をつけて、片方はひきずって、海岸線を撫でるように、歩き始めた。私は砂にまみれたボディブラシを拾って、彼女とは逆の方向へ、帰り道を急いだ。