真の太公望ならば、釣りができる環境を喜び、魚と出会えることを楽しみ、次の釣果に繋げるため自然を愛するはずだ。
現代において最もポピュラーな釣り場の一つに岸壁がある。そんな岸壁には、そこで仕事をする港湾関係者や漁師さんが居る。岸壁は第一に彼らの職場として存在しているのである。そしてそこには魚は勿論、蟹やヒトデなど数多くの生物が暮らし、時に餌場として鷗や野良猫なども訪れてくる。岸壁は人を含めた多くの命を支えている重要な場所なのだ。そんな場所だからこそ、太公望が威張る権利など当然ここには存在しない。我々は釣りをさせてもらっている立場であり、去り際には来たときよりも美しくすべきである。決して彼らに迷惑をかけてはならない。
人気の釣り場なら、これらの光景は必ず見ることができる。
そんな場所へ赴き、幾つかの「ゴミ」を回収してきた。
糸屑を解いて繋いで、先端には更に別のゴミを付け海へ投げ入れてみた。
すると、一投目から間髪入れずにササノハベラが顔を見せてくれた。
ゴミが「ゴミ」ではなく、「釣具」に「餌」に再昇格した瞬間である。
近年、釣り人のマナーのせいで釣り禁止の場所が増加しているが、自身の愚行により自身の釣果を苦しめてどうするつもりだろうか。職場に我が物顔で入り込みゴミを捨てていく人が居たら、死闘の末に衰弱した状態で捨てられたら、糸や鉤が身体に絡まって動けなくなったら……これは岸壁に限った話ではなく、池も川も浜も全部誰かの命に直結している。
使える仕掛けは再利用すること、今後も多くの魚たちに出逢える環境を維持することが、真の太公望としての使命である。釣りができる日々への感謝が、明日の釣果をより良いものにする。