改札を通るとじめっとした潮風を感じる。東京よりもいつも少し暖かいこの町は、私の生まれ育った町。
上京して2年が経つ。東京でのひとり暮らしは思っていたよりも、自堕落で快適なものとなった。6.5畳のワンルームで大学とバイトの往復の日々。テレビで自動再生されるNetflixを眺めながら、休日は溜まった洗濯物を片付ける。たまに友達とご飯に行って、昔の話をして盛り上がる。
ふと、夢を見る。ひだまり色の夢は、幼い頃の記憶。決まって思い出すのは、帰り道の景色。日が沈むのを座り込んで眺めていた。毎日が些細な感動に溢れていた。それが何より大切だった。
高校生になって友人の影響で写真と出会った。設定の仕方も何もかもわからないなか、ただ楽しくてシャッターを押していた。幼い頃のワクワクが蘇るようだった。
最近、「いい大人になりなさい。」と高校の先生に言われたことを思い出す。あの時の先生は「いい大人」だったのだろうか。今考えると、きっと多くの思いを抱えながら、私たちにその言葉を投げかけたのだと感じる。
今の私は?
この自堕落な日々を心地よく思いながら、ただ流される毎日を後悔している。
写真で、今の私が見る故郷を残したい。それが今の私を救ってくれる気がした。故郷の穏やかな景色は、忙しない日々を緩やかに解いてくれる。幼い自分と対話をしながら、カメラ越しの景色を眺めてみた。