街を歩く。円や四角といった標識が至る所で視界に入ってきた。標識を見かけると内部の文字や記号が瞬時に脳に伝わる。脳内で情報は文字や地名といった内容を表す言葉に変わる。記号も同様に内容を表す言葉に変換される。それは知覚した瞬間に意図せず生じ、外界から脳内へ到達した。
移動の最中には「進む」「止まる」「曲がる」などといった数多の選択に迫られる。標識の情報は役目を終えると必要性の無さからすぐに失われていった。記憶している道の場合は、標識を見る前にすでに記憶で情報を知覚している。この時に呼び起こされる記憶は標識を見た時の風景ではなく、道を体系的に記憶した土地の広がりに近いイメージだった。
私たちは標識が視界に入る時、標識の内部情報だけを見ているのではないのだろうか。道を進む時に情報だけが脳に残り、標識のあった場所には情報が抜け落ちた構造物だけが存在しているようだった。本作では、この知覚プロセスの残骸として形成される風景の視覚化を試みた。