来し方行く末

都築 真歩

2022年2月。

ある町で営まれていた小さな布団屋が閉店した。

それは老夫婦が約50年間営んできた地域に根ざした店だった。

 

閉店後、お婆さんの様子は変わっていった。

昔の話を何度も繰り返すようになり、服装に頓着しなくなり、

笑顔が減り、どこか暗くなって表情も変わっていった。



「生活が大きく変わっちゃったからかもしれないね」

お婆さんの人生を大きく占めていた仕事が終わったことで、

生き甲斐が失われてしまっていたようだった。

 

 

 

お婆さんはアルバムの写真を見ながらたくさん思い出を笑って話してくれた。

 

 

そんなある日の会話から始まった。 

 

 

『ディメンシア』は、ただ病気というだけでなく、『心が空っぽで、何も考えられない』

といった偏見によって引き起こされる『社会の病気』です。 

     _ルポ 希望の人びと ここまできた認知症の当事者発信 , 生井久美子著



認知症(dimentia)を抱える人は2018年時点で7人に1人、高齢化が進む現在は2025年には

高齢者の約5人に1人が認知症となると予測されている。

日本は早くから認知症への取り組みを進めてきたが、周囲からの孤立や軽度患者への支援不足など

未だ多くの課題を抱えている。

 

私の祖母はアルツハイマー型認知症だ。

 

認知症のリハビリ療法に「回想法」というものがある。

祖母はアルバムの写真を見ながらたくさんの思い出を詳細に語ってくれた。

私は祖母の心の中にこんなにも素敵な記憶があることを羨ましく感じた。

写真は祖母の「過去」を思い出させ、「今」を活き活きとさせてくれるのだ。

 

認知症のある人が、全て不便で、不幸に苛まれているのだろうか。

 

誰もが安心してこれからも暮らすために、私たちはどう寄り添い、支えていくべきだろうか。

そして私たちも老いて認知の問題を抱えた時、どう生きたいのだろうか。

 

 

なんでも撮っておくものだね。

そしたら、昔はこうだったっていつでも思い返せるもの。