『もの・がたり』 “The Silence of Misplacement”
三年前、精神を病んでいた私は片付けという行為がどうしてもできず、ゴミや物が散乱する部屋に住んでいた。
当時の私は、日常生活において物の名前や用途を忘れ、性質別に分類することができない状態に陥ることがあり、私の部屋では本来靴箱に入るべきスニーカーが
ガスコンロの上に置いてあったり、風呂場に古い水が入ったポリ袋が放置されていたりするという状況が当たり前になっていた。
このように、物の意味が掴めなくなり、生活の中で物とそれが所属する場所の関係があやふやになるような経験は、振り返ってみると恐ろしいものである。
しかし、その一方でこの時期に撮った自室の写真を見返すと、面白いことに気がつく。
写真の中の、脈絡もなく自室に散らばったそれらの物は、在るべき場所や持ち合わせている機能から離れ、ただそれ自体として存在しているように見えるのである。
物がそれ自体として存在し、意味を喚起しない状態において、物とは一体何であるのだろう。
私はこの作品において、物と場所との関係性を捉え直し、物が持つ意味を切り離した状態で物それ自体を見つめることを試みた。