蹄跡は風と共に

東倫太朗


イギリス エプソム競馬場

競馬の熱狂に魅了された私は、海外競馬に興味を持つようになった。

そこで、近代競馬発祥の地イギリスをはじめ各国を巡り、人馬が織りなす瞬間の美しさや、土地に根ざした文化の表情を切り取った。

ジャケットやドレスで着飾った紳士淑女が集う華やかな社交場から、Tシャツ姿のおじさんが熱気を帯びる鉄火場まで——

スタイルは違えど、人々の心にはいつも馬への思いが宿っていた。

イギリス

近代競馬の始まり ニューマーケット

首都ロンドンから北へ約100キロ、サフォーク州ニューマーケットは競馬の街として知られる。

1600年代に狩猟のため王室の保養地として栄えたこの街は、邸宅や厩舎が建ち、競馬産業の基盤が築かれた。

広大なトレーニング施設や牧草地が広がり、70以上の厩舎で3000頭を超える競走馬が暮らしている。

人口1.5万人のうち3分の1が馬に関わる仕事をしているとも言われる。

街の西側に位置するニューマーケット競馬場は、1667年に開設され350年を超える歴史を持つ。

現在でも、シーズンの開幕となる2つのクラシックレースなど格式高いレースが数多く開催されている。

世界最古の競馬場 チェスター

リヴァプール郊外の城郭都市チェスターに位置するチェスター競馬場は、現存する最古の競馬場とされており、日本では室町時代の

1539年に競馬が行われたことが記録されている。

街は古代ローマ時代に遡る歴史をもち、競馬場の一部にも当時の城壁が隣接するなど、競馬の伝統を象徴する土地と言える。


アイルランド

風に乗り大地を駆ける

アイルランドの競馬の歴史は17世紀に遡り、1690年代にはキルデア州のカラで、王室による競走が開催された記録がある。

特にサラブレッドの生産が盛んで、年間約9000頭が生まれるヨーロッパ最大の生産国である。

一年に一度、砂浜に現れる競馬場

首都ダブリンから北へ40キロほどの距離に位置するレイタウン海岸では、年に一度だけ潮が引いた砂浜で競馬が開催される。

海岸線を背に繰り広げられる唯一無二の風景に、誰もが魅了される。